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「君にはできない」と言われた全盲の男がつくった“ただのサッカークラブ”を超えたクラブの物語

「マドリードのサッカー」と言えば、アトレティコ・マドリードとレアル・マドリードという二強クラブが緊迫したダービーマッチで激突したり、欧州チャンピオンズリーグでヨーロッパの強豪チームと対戦したりするイメージがある。しかし、スペインの首都マドリードには、地域に根ざした小さなクラブ、ロス・ドラゴネス・デ・ラバピエス(ドラゴンズ)の本拠地もある。この地域密着型クラブの社会的インパクトは、この2つのサッカー界の強豪を凌ぐほどに、マドリードの中でも恵まれない住民たちの生活向上に貢献していると言っても過言ではない。

このクラブが拠点を置くラバピエスは、市中心部のすぐ南に位置し、活気があり、多文化で多様性に富んだ地区である。一方で、経済的理由や移民の立場などのために、社会的排除のリスクにさらされている人々が多く住む地域でもある。「ロス・ドラゴネス・デ・ラバピエス」は、こうした人々にスポーツに親しみ、地域社会に溶け込む機会を提供している。

IBFファウンデーションのスタッフは、ドラゴンズとその活動について詳しく知るために、2014年にこのクラブを設立したホルヘ・ボラーニョスに会った。ホルヘは、生まれ故郷のカナリア諸島からこの地域に移り住んだ物腰の柔らかい控えめな人物で、過去10年間でドラゴンズは成功をおさめているにもかかわらず、ラバピエスをより良い場所にするための自分の仕事を自慢することはない。ホルヘは全盲でもある。

クラブ設立のきっかけと当時の展望を尋ねると、ホルヘは地域にあったギャップを埋める必要性に言及した。ラバピエスには長い歴史を持つ社会活動が根付いていた一方で、地元の学校以外にスポーツをベースにした機会はなく、地域を代表するスポーツクラブもなかった。ラバピエスにインクルーシブなスポーツの場を設けることは、「近隣の多様なコミュニティが共生するためのツールとしてスポーツを活用する、という野心的なプロジェクトだった」と振り返る。

当初は限られたリソースしかなかったにもかかわらず、「クラブは当初の目標をほぼ達成することができた」とホルヘは考えている。ホルヘは、自分自身とクラブの仲間たちを「かなり自由奔放(アナーキー)だ」と表現する。近隣の環境が常に変化するため、年間目標を設定した年間計画はなかった。状況の変化に対応し、予期せぬ障害を克服する能力が、この事業の成功には不可欠だった。

クラブは最初の数年間、金銭面などのリソース不足の地域住民が、手頃な費用、あるいは無料で人工芝のピッチでプレーできるような適切なスポーツ施設へアクセスしにくいなど、多くの課題に直面した。その他の課題としては、近隣住民のためにクラブ内外の社会的なネットワークを構築する一方で、ピッチ上でも結果を出すことを目指した。

現在、クラブはラバピエスの中心部に専用施設を建設し、定期的に練習や社会活動を開催しているが、当初は物理的な活動スペースを確保するのに苦労した。スタート時の状況は、理想的なものではなかった。ホルヘは、フットサルのピッチで最大30~40人の子供たちが一緒にトレーニングしていたことを覚えている。

ドラゴンズは、バスケットボール、インクルーシブ・ランニング、チェスなど、サッカー以外のスポーツを提供するまでに拡大・成長し、その人気は年々高まっている。今では「単なるクラブを超えた存在」-~ホルヘはこれが存在意義のひとつだと語る-~となり、経験を分かち合い、相互支援を提供する場となっている。選手とその家族は、学校での問題、近隣の住宅事情など、日々の現実について話し合うことができる。 クラブは地元の社会福祉サービスと協力し、地元のロマ系住民の不登校を減らすプロジェクトなど、社会活動を実施している。

ラバピエスにおけるドラゴンズの社会的インパクトのもうひとつの顕著な例は、パンデミックの際にクラブがフードバンクを設置し、住民から強い支持を集めたことである。

ホルヘは、クラブや近隣住民のリーダーとしての役割を引き受ける際、視覚障害を理由に抵抗や障壁に直面したことを認めている。地元の役人からは「君のような者には、ドラゴンズのようなプロジェクトを率いることはできない」とストレートに言われた。しかし、クラブに関わる家族の多くは、障害がいまだにタブー視され、障害者が社会から隠され排除され、教育を受けたり雇用を求めたりする機会を奪われている文化圏の出身であるにもかかわらず、彼に能力があり、障害が障壁にならないことを理解すると、彼を支持し、信頼した。

ドラゴンズは、地元の学校や市民団体、企業とも連携しており、選手の多くは近隣の学校に通った後、夜の練習に通っている。ホルヘは、スポンサーを確保するのが難しいことを認めているが、地元企業の支援も受けている。

ドラゴンズが設立されてからの11年間で、クラブは多くの地元の若者が非行やギャングになることから遠ざけ、彼らが仕事と家庭を持つ市民となることに貢献してきた。中には、セミプロになった選手もいれば、ドミニカ共和国の代表選手になった者もいる。

クラブは選手たちに、尊敬、多様性の受容、分かち合い、相互支援、地域社会で調和して生きる必要性などの価値観を、指導ではなく日々の実践によって教えている。人種差別を受けた選手には、その状況を克服し、成長するために必要な手段を与える。

IBFファウンデーションは、主催したグローバルリーダーシップキャンプの参加者とともにドラゴンズを2度訪れ、この組織について直接学ぶ機会を得た。ホルヘにとって、世界各地から集まった多様な全盲や弱視の若者たちとの出会いは、モチベーションを高め、刺激的であり、彼らの主体性に感銘を受けたという。彼は、障害者がリーダーとして立ち上がり、障害にかかわる分野だけでなく、近隣や地域社会での社会的プロジェクトにおいて主導権を握ることが不可欠だと考えている。キャンプの参加者に出会えたことを喜び、彼らのプロジェクトに継続的な支援を提供する必要性を強調した。

ラバピエスで彼がしてきたように、変化をもたらし、社会的な善を育みたいと願う障害者に対するホルヘのメッセージは「忍耐すること。そして恐れないこと」。ひとつのプロジェクトがたとえ失敗したとしても、他の取り組みは生まれる。決断力としなやかな回復力は重要な資質であり、成功することによって扉が開かれ、次の世代の障害者がさらに多くのことを成し遂げるための道が開かれる。私たちは後に続く人たちと連帯を示し、彼らのために挑戦がより容易になるよう努める必要がある―。ホルヘはそう信じている。

ドラゴンズは、短い歴史ながらも、マドリードのスポーツエコシステムにおいて類をみない組織であり、多くの選手とその家族、そして本拠地であるラバピエスの近隣住民の生活に大きな影響を与えてきた。IBFファウンデーションは、このような組織と協力できることを誇りに思うとともに、クラブの今後の成功を祈念している。

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