
VISI-ONE Innovation Hubは、視覚に課題を持つ方々の“働く自由”をテーマにした第3回 視覚障がい者向けビジネス実践知ワークショップを開催しました。テーマは「その手間がなくなる!AIで広がる仕事の自由」。AIを活用して日々の業務をより効率的に行う方法を探る4回シリーズとして、9月に実施しました。
主催はVISI-ONE Innovation Hub、運営はIBF Foundation。講師には株式会社ステイゴールド代表取締役 兼 CEOの髙橋靖和氏を迎えました。
「ツールを学ぶ」よりも「どう使いたいか」から始める
初回はオンライン形式で行われ、参加者たちは「自分の業務でAIを使って改善したいこと」や「今できていないができるようになりたいこと」をテーマにグループディスカッションを行いました。
このワークショップの方針は、ツールの紹介や操作方法から入るのではなく、「どんな課題をAIで解決したいか」を起点に考えること。
「エクセルの表の体裁を整えたい」「議事録をAIで整理して結論を抽出したい」「会報誌づくりを効率化したい」など、現場の悩みが共有されました。これらが、実践となる次のステップへの出発点となりました。
対面での試行、そしてアクセスの壁
2日目は、講師がオンライン、参加者が会場に集まるハイブリッド形式で実施。見えているスタッフが隣で支援する体制となりましたが、ここで問題が発生しました。
参加者が使用している読み上げソフトやブラウザーによっては、AIツール(ChatGPTなど)との相性が悪く、入力や操作ができないケースが相次ぎました。結果として、当初予定していたような実践的な課題解決までは至らず、AIにアクセスできた一部の参加者が短時間、試すことにとどまりました。
それでも、「AIにたどり着けない」という現実を共有できたことは大きな学びでした。AI活用以前のアクセス設計の重要性が、参加者と運営の双方に印象づけられました。

対面での実践と小さな成功体験
3日目は、講師・参加者が一堂に会する完全対面形式で実施。前回の課題を踏まえ、講師の髙橋氏は、より使いやすく安全な環境として「NotebookLM」を紹介しました。
参加者からは「大きなデータを読み込んで、必要な情報を探し出して使いたい」「クローズドな環境で活用したい」などの要望があり、NotebookLMの導入はそれに応えるものでした。他にも、ChatGPTやGensparkなど、講師から目的に合わせて様々なツールがあることが紹介されました。全員が十分に操作できたわけではありませんでしたが、一部の参加者が質疑応答や要約機能などを体験し、AIの可能性を実感できた場面もありました。
AIを「自分の業務に取り入れられるかもしれない」と感じ、このワークショップが理解から行動へと一歩進んだ回になりました。
実践を見据えた宿題
最終回(4日目)はオンラインで実施。事前に、「複合機のマニュアルをAIツールに読み込ませ、質問に答えさせる」「特定の相手に向けて説明をリライトさせる」といった宿題が出されました。単にAIに指示を出すだけでなく、AIを使って誰のために、何をするかという視点を磨く内容でした。講師からは全体の振り返りもありました。

参加者からの声
「座学としてはとても学びがありましたが、実技はそれぞれの習熟度や環境の違いがあり、十分に機能しなかったように思います」
「オンラインは情報を得るだけならYouTubeでも代用できると感じました。パソコン操作のような内容は、対面で個別にサポートしてもらう方が効果的だと思います。私は対面の2回と“居残り特訓”で最も多くの気づきを得ました」
AIにアクセスできる環境を整えることが先決
今回の参加者は30代から60代までの働く世代。読み上げソフトを使う人が約3分の2、画面拡大で操作する人が約3分の1でした。
一人ひとりのPC環境やスキル、業務内容が異なる中で、AIを共通の道具として扱う難しさと、その先にある可能性の両方を実感できた4日間でした。
AIを使う以前に、AIにアクセスできる環境を整えることが課題であり、同時にそれでもAIを使いこなしたいという前向きな姿勢が、参加者から感じられました。
VISI-ONE Innovation Hubは、今回の学びをもとに、今後も視覚障がい当事者の実践知を高めるプログラムを展開し、自らの意思で働き方を選べる社会の実現を目指していきます。